2026/1/27
蓬田修一
わたしは文学作品が好きなほうで、古典から現代まで薄く幅広く読んでいます。
作品を読むと心が動きます。いろいろ感じたり、考えさせられます。楽しいのですが、もう少し違う読み方もしてみたいと思い始めました。
少し調べてみると、作品を読んで「心が動く」ことは「鑑賞」であるとわかりました。
もうひとつ、文学作品の楽しみ方に(文学に限らず芸術すべてにですが)「批評」があることを知りました。
そこで、わたしも批評に挑戦してみたいと思いました。ただ、批評の手順はまったく分からないので、取りあえず初心者でも無理なく実践できる批評の手順を整理してみました。
① まずは「評価しよう」としないで、素直に読む
初心者が最初につまずきやすいのは、
「良い作品か/悪い作品か」「何を言いたい作品か」
を最初から判断しようとすることです。
批評の第一歩は、判断の保留です。
- 面白いかどうか
- 好きか嫌いか
- 分かった気がするか、分からないか
これらを結論づけずに、まずは一度、作品を最後まで読み切ります。
この段階では、
「何か引っかかった」
「なぜか忘れられない場面がある」
「読後に妙な疲れが残った」
といった、感情の痕跡を大切にしてください。
ここが、後の批評の核になります。
② 「心が動いたところ」を一点だけ選ぶ
初心者の批評で最も重要なのは、
欲張らないことです。
作品全体を論じようとしなくて構いません。
むしろ、次のような一点に絞ることが大切です。
- ある場面が妙に印象に残った
- 主人公の行動に強い違和感を覚えた
- 読後感が、他の作品と明らかに違った
ここで大事なのは、
なぜか分からなくてもよいということです。
「分からないが、気になる」
これは批評において、極めて健全な出発点です。
③ 「なぜそう感じたのか」を作品の中に探す
次に行うのは、自己分析ではありません。
心理的な内省に閉じないことが重要です。
問うべきは、
- 自分はなぜそう感じたのか
ではなく - 作品は、どのようにそれを起こしたのか
です。
具体的には、
- どの言葉が使われているか
- どの視点で描かれているか
- 何が語られて、何が語られていないか
- 時間の流れはどうなっているか
といった、テキストの事実に戻ります。
批評は感情から始まりますが、
根拠は常に作品の中に置きます。
④ 「問い」を一文で立ててみる
ここで初めて、批評らしい作業に入ります。
それは、問いを立てることです。
例えば、
- なぜこの主人公は、最後まで変化しないのか
- なぜこの物語では、決定的な説明が避けられているのか
- なぜこの作品では、感情が淡々と描かれるのか
問いは大きくなくて構いません。
むしろ、素朴で限定的な方が良い問いです。
「この作品は〇〇だと思う」
ではなく、
「この作品は、なぜ〇〇なのか」
という形にすると、批評になります。
⑤ すでにある解釈を「尊重したうえで」距離を取る
初心者がやってはいけないのは、
- 既存の評価を無視すること
- 権威に対抗しようとすること
です。
むしろ、
- 一般にどう読まれてきたか
- 教科書的にはどう説明されているか
を簡単に確認し、
「その読みは理解できるが、私はここに別の可能性を見る」
という立ち位置を取るのが理想です。
これは対立ではなく、補助線を引く行為です。
⑥ 「この読み方で、何が見えるようになるか」を示す
良い批評は、結論よりも効果を示します。
つまり、
- この読み方をすると、作品のどこが鮮明になるのか
- これまで見えにくかった何が見えてくるのか
を、静かに提示します。
「正しい解釈」だと主張する必要はありません。
「このように読むと、この作品はこういう姿を見せる」
それで十分です。
⑦ 最後に:初心者の批評で最も大切なこと
最後に、最も重要なことをお伝えします。
初心者の批評に求められているのは、
- 理論の網羅
- 独創性の誇示
- 断定的な結論
ではありません。
求められているのは、
- 丁寧に読んだ痕跡
- 作品への敬意
- 自分の読みを他者と共有しようとする誠実さ
です。
作品が決まったら、次は 「その作品で、どこが引っかかったのか」 から考えていきましょう。