北茨城の冬は、東京よりも寒さが厳しく感じる。二月の末になって、梅がようやくほころび始めたが、風は鋭い針が肌を刺すように冷たかった。

 そんな季節に、私は生まれて初めてこの町を訪れた。

 私が勤める会社は、世界でも有数の化粧品メーカーである。創業者は明治初期に生まれた。私が訪れたこの町の出身である。

 今回の出張は、町と会社との間で、創業者の出身地に恩返しの意味も込めて、これから社会へ出たり進学する高校生に、化粧の基礎を教える講習会の企画が持ち上がり、私はその講師として来たのだった。

 会場は町の文化センターだ。町の職員とこれから始める講習会の打ち合わせを終えて、文化センター2階の会議室の窓から外を眺めると、参加する高校生たちの姿が見えた。

 間もなく高校を卒業する生徒たちは、建物のエントランス前で、わずかに暖かみを帯びた日差しを浴びながら、数人ずつ集まって談笑しているのが見えた。

 講習会には女子高生だけでなく男子生徒も参加する。いまの10代にとっては、化粧は女性だけのものではないのだ。

 参加講習会が始まった。化粧の実習に先立ち、私は「身だしなみ」と「おしゃれ」について、少し話した。

 ーー身だしなみは相手目線、おしゃれは自分目線。化粧はどちらにとっても大切。

 こんな話を短くしたあと、化粧の初歩の手順をひとつひとつ教えていった。

 鏡に映る生徒たちの顔が少しずつ変わっていく。アイシャドウをのせる手がぎこちなく、リップを引く口元は不安げだ。それでも、みな真剣に取り組んだ。

 講習を終えた後、ひとりの女子高生に声をかけた。

 「どうでしたか?」

 そう尋ねると、彼女は小さな声で答えた。

 「・・・一割くらい、きれいになれた気がします。」

 言葉は控えめで、表情には恥じらいを帯びていた。彼女の目には、新しい世界へ飛び出す前の不安と喜びがにじんでいた。

 講習を終えて文化センターの建物を出ると、海の方からほんの少しだけ春めいた風が吹いてきてた。