2024年12月 撮影

馬喰町で圧倒的存在感を放つ

わたしは20数年前の馬喰町を知る者である。いまでも年に何回かは馬喰町に行くが、いまの馬喰町の街並み変化にはいくたびに驚く。

馬喰町エリアは昔ながらの問屋がほとんどなくなった。そのなかで、いまでも圧倒的存在感を放っているのがエトワール海渡だ。

同社について考えることは、街の変化を考えるだけでなく、日本の流通がどのように変化してきたのかを知る手掛かりにもなるのではと思い、少し考察した。

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馬喰町で120年以上続く

東京・馬喰町を訪れると、かつて軒を連ねていた繊維や衣料品の問屋が大きく減っていることに気づく。街の風景は変わり、マンションやホテルなども目につくようになった。

しかし、その中で長年変わらず馬喰町を拠点として事業を続けている企業がある。1902年創業のエトワール海渡である。同社は現在も馬喰町に本拠を置き、約2万店の小売店と取引し、約2,500社のサプライヤーから約70万SKUの商品を取り扱っている。

なぜ、流通構造が大きく変化したにもかかわらず、エトワール海渡は事業を継続できているのであろうか。

その理由を考えると、同社は「昔ながらの問屋が生き残った」というより、問屋というビジネスの役割そのものを時代に合わせて変化させてきた企業であることが分かる。

問屋の役割は「商品を売ること」だけではない

かつての問屋は、メーカーや産地から商品を仕入れ、それを全国の小売店に販売することが主な役割であった。

しかし、インターネットや物流システムが発達した現在、メーカーと小売店が直接取引することは珍しくない。ECを利用すれば、小売店が全国のメーカーの商品を探して仕入れることもできる。

そのため、単純に「商品を仕入れて販売する」だけの問屋は、以前ほど必要とされなくなった。

エトワール海渡が興味深いのは、こうした環境変化に対して、問屋の役割を「小売店の商売を支援すること」へ広げてきた点である。

同社は衣料品だけでなく、服飾雑貨、生活雑貨、インテリア、食品、手芸用品など幅広い商品を取り扱っている。小売店は一つの店で多様な商品を探すことができる。しかも、商品を大量に仕入れるのではなく、小ロットで必要な商品を仕入れることができる。

これは特に、地域の専門店や小規模店舗にとって重要な機能だ。

約2万店のネットワークが大きな財産

エトワール海渡の強みの一つが、長年かけて築いてきた小売店とのネットワークだ。

約2万店の小売店と取引することで、同社には全国の小売現場からさまざまな情報が集まる。

どのような商品が求められているのか。どのような品揃えが売場に合うのか。地域の小売店がどのような課題を抱えているのか。

こうした情報を仕入れや商品開発に生かすことができる。

つまり、

小売店との取引
↓
小売現場の情報が集まる
↓
商品選定・開発に生かす
↓
魅力的な品揃えを提供する
↓
小売店がさらに利用する

という循環が生まれる。

このネットワークそのものが、長い年月をかけて形成された同社の重要な資産なのだ。

70万SKUという「選択肢」

もう一つの特徴が、非常に幅広い品揃えだ。

約2,500社のサプライヤーから約70万SKUの商品を扱うことで、さまざまな小売店のニーズに対応している。

ここで重要なのは、単純に「商品が多い」ということではない。

小規模な小売店にとっては、大量の商品を一度に仕入れることにはリスクがある。売れ残れば在庫になってしまう。

その点、多様な商品を少量ずつ仕入れられる仕組みには価値がある。

エトワール海渡は、商品の「大量販売」だけではなく、小売店が自分の店に合った商品を選び、必要な量だけ仕入れることを支える役割を担っているのである。

リアルの店舗とデジタルを組み合わせる

エトワール海渡のもう一つの特徴は、デジタル化を進めながら、リアルの店舗を手放していないことだ。

同社は2000年代からECに取り組み、現在はオンラインで商品を検索・発注できる仕組みを整えている。

一方で、馬喰町のショールームでは、実際の商品を見たり触ったりしながら仕入れを検討できる。

これは大きな意味を持つ。

オンラインは便利であるが、商品の質感や大きさ、色合い、売場での見え方など、実物を見なければ分からないことも多い。

そこで、

リアルで商品を発見する
→オンラインで確認する
→必要な商品を発注する

という組み合わせが可能になる。

つまり、昔の問屋が持っていた「人と人が会い、商品を見ながら商談する」という価値を残しながら、デジタルによって利便性を高めている。

小売店を総合的に支援

さらに同社は、商品の卸売だけではなく、店舗づくりやディスプレイ、商品企画、オリジナル商品の開発など、小売店の経営を支援するサービスにも取り組んでいる。

ここに、現在のエトワール海渡を理解する重要なポイントがある。

昔の問屋は、

「この商品を仕入れてください」

という存在であった。

現在のエトワール海渡は、それだけではなく、

「この店にはどのような商品が合うのか」

「どのような品揃えにすればよいのか」

「どのように商品を見せればよいのか」

というところまで、小売店と一緒に考える存在になっている。

つまり、商品を売る会社から、小売店の商売を支える会社へと役割を広げた。

「問屋」は消えたのではなく、姿を変えた

馬喰町の街並みを見ると、昔ながらの問屋が減ったため、問屋そのものが衰退したように感じる。

しかし、エトワール海渡の歴史を見ると、別の見方ができる。

同社は1902年の創業以来、時代に合わせて商売の方法を変えてきた。小間物の卸売から始まり、現金卸売、会員制、小売店向けの総合卸、そして現在ではECや商品企画、店舗支援へと事業を広げている。

つまり、守ってきたのは「昔の問屋の形」ではなく、メーカーと小売店を結び、小売店の商売を支えるという問屋本来の機能だったのである。

馬喰町の変化を考えるとき、エトワール海渡は非常に興味深い存在だ。

多くの問屋が廃業したり、別の業態へ転換したりする一方で、同社は長年培ってきた取引先とのネットワーク、豊富な商品情報、仕入れの仕組みという財産を生かしながら、デジタル化や商品企画、店舗支援へと事業を進化させてきた。

その姿から見えてくるのは、単純な「昔の問屋の生き残り」ではない。

問屋という商売はなくなったのではなく、時代に合わせてその役割を変えているのである。