令和五年(2023)9月6日筆
短編集真夏の死所収
敗戦後間もなくのころ、若者は熱海のホテルでボーイとして働いている。
ホテルは占領軍の接収が終わったばかりである。
若者はハンサムで美男子だ。
ある日、ホテルに魅力的な女性が男とともに宿泊に来る。女性は愛人である。
若者はホテルボーイとしての矜持を守りながらも、この女性と逢瀬する気持ちを高めていく。
女性は若者からの静かなアプローチに対して、その気がありそうな返答を若者に与える。
若者は女性との逢瀬が叶うものと胸を熱くするが、結局は叶わない。
若者は、食堂で働く器量のよくない女と結婚し、もうすぐ子供が生まれる。
こういう話である。
どうして器量の悪い女と結婚したかは、三島は書かない。
そこがタイトルのクロスワードパズル=謎解き、ということだろうか。
クロスワードパズルは、縦横のマスを埋めて完成される。
縦は魅力的な愛人女、横は食堂で働く器量の悪い女。
若者にとって、器量の悪い女との結婚は、クロスワードパズルがぴたっと埋まったような心持ちだということか。
昭和二十七年1月「文藝春秋」に掲載。