2025/12/28
蓬田修一

1.「反日教育」という言葉の位置づけ

まず確認しておくべき点は、中国において「反日教育」という言葉そのものが、公式にはほとんど使われないという事実です。中国共産党や教育当局は、「愛国主義教育」「近代史教育」「抗日戦争教育」といった表現を用います。

つまり、中国側の自己認識では、反日教育は「日本を憎むための教育」ではなく、「中国がどのような被害を受け、いかに立ち上がったかを学ぶ教育」と位置づけられています。

その結果として、日本を加害者・敵性国家として固定的に認識させる効果を持ちます。これは日本側から見ると「反日教育」です。


2.学校教育における反日教育の具体的内容

学校教育では、小学校から高校まで一貫して、近代史の中で日本は特別な位置を与えられています。特に重視されるのは、

  • 日清戦争
  • 日中戦争(抗日戦争)
  • 南京事件
    などです。

教科書では、日本軍の残虐性が強調され、中国側の被害が具体的な数字や写真とともに示されます。一方で、日本国内での多様な歴史認識や、戦後の日本社会の変化については、ほとんど触れられません。

重要なのは、これが「事実か虚構か」という単純な問題ではなく、どの事実を選び、どの文脈で教えるかが意図的に設計されている点です。結果として、日本は「過去の侵略を十分に反省していない危険な国」というイメージが、生徒の中に自然に形成されます。


3.記念館・博物館などにおける社会教育

学校教育を補完する形で、各地の抗日戦争記念館や博物館が大きな役割を果たしています。これらの施設は、修学旅行や学校行事の訪問先として頻繁に利用されます。

展示は非常に視覚的・感情的に構成されており、残虐な写真や模型、犠牲者の証言映像が多用されます。来館者は、理性的に歴史を考察するというよりも、「忘れてはならない屈辱」「怒りと悲しみ」を体感するよう導かれます。

ここでも、日本は過去の敵であるだけでなく、「警戒を怠れば再び同じことが起こり得る存在」として描かれます。


4.メディアにおける反日コンテンツの大量生産

学校と社会教育に加えて、現代中国で極めて重要なのがメディアです。テレビドラマ、映画、ネット動画、SNSに至るまで、抗日戦争を題材にしたコンテンツが大量に供給されています。

これらの作品では、日本兵は誇張された残虐性や愚かさを持つ存在として描かれ、中国側は英雄的・道徳的に優れた存在として表現される傾向があります。

若い世代にとって、反日的なイメージは「勉強した知識」というより、「子どもの頃から繰り返し見てきた物語」として身体感覚に近いレベルで定着します。


5.なぜ中国共産党にとって反日教育は必要なのか

では、なぜ中国共産党は、これほどまでに反日教育を重視するのでしょうか。その理由は、中国の統治構造にあります。

第一に、反日教育は共産党の政治的正当性を支える装置です。共産党は「抗日戦争を指導し、中国を救った政党」として自らを位置づけています。日本との対立の歴史を強調することは、党の存在理由を国民に再確認させることにつながります。

第二に、国内矛盾の緩和という役割があります。経済格差や社会不満が拡大する中で、外部に分かりやすい「共通の敵」を設定することは、国民の不満を体制批判へ向かわせない効果を持ちます。

第三に、国際社会における交渉力の源泉です。強い国内世論としての反日感情は、対日外交において「政府としても譲れない」という姿勢を正当化する材料になります。