
竹川宣彰(昭和52年生まれ)
「猫オリンピック」
ぼくは森美術館の展示場にいる。
次の部屋に入ると、小さな猫の置物が観客となっているスタジアムが目に入った。
「これは何?」
現代アートでは、初めての作品を見たとき、大体において、そう感じる。今回も「これは何?」だ。
ぼくはこの文章を2025年の春に書いている。作品を見てから6年ほど経過している。
個人的には面白みを感じなかったのだけど、美術館で作品を見てからずっと気になっていたのだ。
6年経って、やっと作品について書ける気持ちになった。
☆ ☆
竹川宣彰という作家を、この作品で初めて知った。
ネットで調べたら、この作家は韓国、北朝鮮、中国を「ポストコロニアル」とかいう切り口で、現地の作家や当事者たちと共同で作品を作っているらしい。
ぼくもアジア、特に東アジアに興味があるので、この作家にも興味を持った。
さらにぼくも近代の歴史に関心があるので、この作家にもさらに関心を持った。
インタビュー記事を読むと、東京オリンピックのことを作家は話していいた。
東京オリンピックには反対のようだ。失敗すると言っている。
ああ、そうか。この「猫オリンピック」は、東京オリンピックへの作家なりの意思表示なのだと思った。
子猫で埋まったスタジアムを愛おしそうな眼差しを向けている年配女性が、ぼくのそばにいた。ぼくは、作品を鑑賞しているその女性の表情のほうが、作品より面白かった。