【質問】

中国は賄賂社会だと言われることがあります。確かに権力を持つ中央・地方の政治家には賄賂を贈ることで、企業や個人は自分たちの要望を短期に達成することが可能なことが多いでしょう。

公務員や企業の役職者に対しても賄賂を贈ることは日常的な行為なのでしょうか。

また、時折、賄賂による蓄財が理由で、政治生命を絶たれる政治家のニュースを聞きます。中国にも賄賂を規制する法律はあると思いますが、なぜ賄賂は広く行われているのでしょうか。

【回答】

「中国=賄賂社会」というイメージには、確かな根拠がある面と誤解・過度の単純化が混じっている面の両方があり、そのバランスをとることが大切です。以下、現実と制度・リスク、そして対策の構造を含めて整理します。


1. 中国における賄賂・汚職の実態

●汚職・贈収賄は現実としてある

  • 中国の公務員や政治家への贈賄は、歴史的にも現代でも現実の問題になっています。
  • 例えば、国有企業トップが巨額の賄賂を受け取った事件も報じられています。ある元幹部は現金数億元(数十億円相当)を隠し持っていたという事例もあります。
  • 最近も、北京市の元副市長が賄賂として数千万元(数億円)を受け取り、有罪判決を受けたケースがあります。
  • 汚職の摘発は非常に大きな社会問題であり、習近平政権下でも「反腐敗(反汚職)運動」が繰り返し実行されています。
  • 特に国家系(国有)企業の幹部、とりわけプロジェクトを裁量できるポジションには、不正のインセンティブが強く働くケースが多いと指摘されてきました。
  • 「小さな賄賂(少額賄賂)」が習慣化してきた、という議論もあります。JBpressによると、役所の担当者が小さな便宜を提供するために、企業などから“接待・贈り物”等を期待する慣行が根付いているという声もあります。

2. 法制度:賄賂を禁じる法律はあるのか

はい、中国にも賄賂(贈収賄)を処罰するための法律が存在します。以下が主な制度・法律構造です。

  1. 刑法による贈賄・収賄規定
     - 中国の刑法には、国家公務員や監察対象者(行政・司法関係職員など)への贈賄行為を重く罰する規定があります。2024年3月1日施行の刑法改正では、贈賄・腐敗に対する罰則が強化されました。具体的には、複数回や複数人への賄賂提供、公務員・重要分野(医療・教育・年金など)への賄賂などを重罰対象としています。
  2. 不正競争防止法(商業賄賂)
     - 企業間または企業と公務員との間で行われる“商業賄賂”に対しては、「不正競争防止法」が適用されます。過去に改正がなされ、罰則が強められています。
     - 2024年にはさらに改正案が出されており、企業・個人双方への責任(両罰規定)を明確にするなど、賄賂規制を強化しようという動きがあります。
  3. 共産党内規範(倫理規定)
     - 共産党員向けには「中共52か条倫理規範(CCP 52 code of ethics)」という規範があり、不正行為を禁じるガイドラインが設けられています。
     - 党の規律を破れば、党内処分(解雇・除名)や刑事処罰の対象にもなり得ます。

3. なぜ賄賂が「儲かる」「やめにくい」のか:制度・実践の矛盾

法律があっても、賄賂・腐敗が根強い理由はいくつかあります。

  • 権力の集中:特に地方や国家プロジェクトでは権限を持つ公務員が強く、企業は便宜を得るために賄賂を使わざるをえない状況がある。
  • 文化・慣習:関係を築くための「接待文化」が残っており、“贈り物を渡す・飲食を共にする”ことが便宜供与の一部になっている。
  • リスクとコストの評価:賄賂を贈って成功すれば大きな利益を得るが、摘発されたときのリスクもある。一方で反腐敗運動は強まっているが、「全てを一律に監視できているわけではない」との見方もある。
  • 制度の二重性:法律は厳しくても、実際の運用には不透明さが残る。加えて、“どういう賄賂が摘発されやすいか”には“選ばれやすさ”の問題がある(政治的な要素が絡む)。

4. 最近の反腐敗運動と現状

  • 習近平政権は反腐敗運動を大きな柱としており、高級官僚の摘発も多数。
  • 典型的なケースとして、国有石油企業の元トップが賄賂を受けた罪で実刑を受けた例があります。
  • 一方で、こうした反腐敗は必ずしも徹底した構造改革を意味するものではなく、権力闘争の手段になるという見方もあります。
  • また制度改革も進んでいて、不正競争防止法の改正や刑法強化によって、企業賄賂および公務員賄賂への取り締まりを強める動きがあります。

5. 結論と解釈

  • 賄賂・汚職は中国社会の重大な現実問題であり、一部では「日常化」されている面もあります。特に企業と公務員の間の商業賄賂は長年の慣習ともなっています。
  • しかし、法律・制度がまったくないわけではなく、また最近では罰則強化・制度改革が進んでいる。
  • 反腐敗キャンペーンは強力で目立つが、それが公平かつ全ての腐敗を根絶するものかは懐疑の声もあります。
  • したがって、賄賂問題は中国を理解するうえでの重要な構造的リスク・矛盾と言えます。