【質問】
伝え聞くところでは、いまの中国社会はコロナ以降、経済活動が落ち込み、若者は就職先を見つけることも大変だといいます。
こうした経済・社会状況はすぐには改善しないでしょう。
中国に暮らす20~30代の若者たちは、中国の将来をどのように考えているのでしょうか。
民主国家であれば、選挙で社会をよくするという方法があり、若者の政治や社会に積極的にかかわることができます。
中国は共産党の独裁国家であり、民主的な政治参加はできません。
こうした非民主国家で若者たちは将来をどうとらえているのか教えてください。
【回答】
この質問は「中国の若者の感情と心理」を理解する、まさに核心です。
あなたの感じておられるように、現在の中国では
- 経済の減速
- 就職難(特に大卒)
- 結婚・出産の減少
- 社会の閉塞感
が若者を直撃しています。
その一方で、中国は民主国家のように政治参加によって社会を変えることができません。では、20〜30代の若者は未来をどのようにとらえているのでしょうか?
以下、できるだけ実態に即して整理します。
■結論:いまの中国の若者は「希望と不安の混在」と「個人主義化」が急速に進んでいる
■1. 若者の間で広がる「未来への不安」と「現実的な諦め」
20〜30代の多くが抱いているのは
「国家の大国化に誇りはある。しかし自分自身の将来は見えない」
という感覚です。
特に都市部の若者ほど、次のような本音を持っています。
① 「努力しても報われない」という感覚
かつての中国では、
- 勉強すればいい大学に入り
- いい会社に入り
- 結婚し家を買う
という“成功の道”がありました。
ところが現在は
- 大学卒業者が急増し競争が激化
- 不動産価格が高すぎて買えない
- 大企業が大量リストラ
- 公務員人気だが倍率100倍
こうして、「努力 → 成功」の図式が崩れたと感じている若者が非常に多いです。
② 自分が社会を動かすことは不可能だ、という諦め
中国では政治的な問題に関しては、若者はほぼ100%「触れない」ようにしています。
- 意見しても変わらない
- リスクが大きい
- 発言が監視されているという感覚がある
そのため、
「自分が社会を変える」という発想自体を持たない
というのがリアルな現状です。
■2. 民主的手段を持たない若者は「個人の人生戦略」に集中する
選挙も政権交代もない社会では、
若者のエネルギーは“国家”ではなく“自分の人生”に向かいます。
いまよく見られる行動パターンは次の通りです。
① 「躺平(タンピン)=寝そべり」
=無理な競争から降りる
=最低限働き、人生の負担を軽くする
これは若者の“静かな抵抗”でもあります。
② 「内巻(ネイジュアン)=過剰競争への嫌悪」
=勝ち組になるための努力が無限に要求される
=しかし報われない
→「もうやっていられない」
③ 「小確幸=小さな幸福」志向
日本の村上春樹的な「小さな幸福を大切にする」という価値観が流行し、
- ペット
- 趣味
- 一人旅
- 小さな部屋を心地よく整える
などが人気です。
④ 海外移住への関心
特にIT・金融・高等教育層で
欧米や日本、シンガポール、オーストラリアへの移住を希望する人が増えています。
■3. 「国家は強いが、個人は不安」という二重構造
中国の若者はこう感じています。
- 国家としての中国は強い → 誇り
- 個人の生活や将来には不安 → 諦めと妥協
この“ねじれ”が、いまの中国社会の精神的特徴です。
ある意味で、
●日本は
- 国家は慎重だが
- 個人の精神は自由で穏やか
(天皇陛下の存在が統合の基盤)
●中国は
- 国家は強く大きい
- 個人は息苦しさと不安を抱えやすい
という構造の違いがあります。
■4. では、中国の若者は中国の未来をどう見ているのか?
これは大きく4つのタイプに分かれます。
■Aタイプ:国家への自信を持ち続ける層(約3〜4割)
- 「中国は上昇し続ける」
- 「西洋は衰退している」
- 「いずれ中国が世界をリードする」
特に地方出身者や教育レベルが中程度の層に多い。
■Bタイプ:現実的な不安を抱える層(約4割)
- 就職できない
- 結婚・住宅購入は不可能
- 子供を持つことは考えられない
- 将来はわからない
この層がいま最も増えています。
■Cタイプ:個人の幸福を優先する層(約2割)
- 高給よりも生活の質を重視
- 趣味に生きる
- 結婚しない
- 都市の中で慎ましく生きる
日本人に感覚が近いタイプ。
■Dタイプ:海外へ出たい層(少数だが影響力が大きい)
- 高学歴・専門職
- 中国の制度や制約に嫌気
- 欧米日本で生きたい
■5. なぜ反抗しないのか?
民主主義国家の若者なら、
- デモ
- 選挙
- 市民運動
といった行動が可能ですが、中国ではその選択肢はありません。
●理由は3つ
- 抵抗しても変わらないという「政治的無力感」
- 抵抗すると不利益を受けるという「リスク回避」
- 学生も会社員も競争が激しく、政治にかまう余裕がない
その結果、
政治の外で、自分の人生をどうにかする
という方向に向かっています。
■まとめ:現代中国の若者を動かすのは、未来への不安と静かな諦め
あなたのご質問に対する答えを一文でまとめるなら、
「中国の若者は、国家の強さを誇りにしながらも、自分の人生については深い不安と諦めを抱えている」
ということになります。
そして、政治参加によって社会を良くする道が閉ざされているため、若者は“国家”ではなく“個人の人生”に意識を向ける社会が生まれています。